「最強のエンジニアになるための話し方の教科書」を読み、過去の経験も踏まえてコミュニケーションについて改めて考える良い機会になりました。
本記事では、書籍の内容を引用しつつ、論理的な正しさだけでは仕事がうまく進まない場面で私が感じたことを整理してみます。
特に過去の私のように「論理的で正しいことが全て」と考えがちな方にとって、何かしらの気付きにつながれば幸いです。
はじめに
これからの時代、技術力だけでエンジニアは生きていけるのでしょうか。 いいえ、「技術の価値を伝える」ことができなければ、エンジニアは技術で収入を得て生きていくことはできません。
ソフトウェア業界でも生成AIの進化により、技術力が一部代替され始めています。今後もその流れは加速し、より技術力だけで生きていくのが難しい世の中に突入すると考えています。
そのような世界では組織的な動きや、他人との関わりがより重要になります。その際に論理的に正しいことを重視するあまり、相手の状況や気持ちを考慮せずに一方的に主張してしまうと良好な関係を築きづらいです。
本書籍では以下のように警鐘を鳴らしています。
多くのエンジニアは技術力ばかり向上させていますが、仮に技術力が200%(2倍)になっても、「伝える力」がゼロなら、 技術力(200%) × 伝える力(0) = 真のパフォーマンス(0) なのです。
1人ができる事は少なく、関係者と協力し、価値を生み出していくことが多くなります。このことはコミュニケーションの改善を考える大きな要因になります。
本書籍の特徴はその対象をエンジニアに焦点を当てていることです。確かにこういう傾向のエンジニアは多いような気がしています。
私もそのような時期がありましたし、日々改善を続けていたりもします。
この本ではそのような傾向がある人がまず自分の癖に気付けるような具体例などが多く挙げられています。またそれがなぜ悪影響を及ぼすことがあるのかや、改善の方法などを丁寧に説明しています。
会話の目的は「勝つこと」ではない
エンジニアの話し方は、正しい意見を認めてもらうための会話です。会話の目的は、相手の意見をおさえ、いかに自分の正しい主張を通すかにあります。 そのため、会話は相手との戦いであり、会話は最初から対立しています。...
会話は何かを達成したり、解決するのが目的であって、「何が正しいか」はほとんどの場合、必要ありません。
私がこの書籍の中で、一番好きな内容です。
上記ほど明確な対立は少ないかもしれませんが、似たような場面は多く見かけます。
例えば、チーム内で今後実施するタスクの認識を合わせる会議で、タスク名が説明口調で長かったとします。
「XXXリポジトリを実装し、YYYデータを保存できるようにして、ZZZで活用できるようにする」
そこでタスクを見たメンバAさんと作ったBさんが以下の会話を始めます。
- A「このタスク名は長くてわかりづらいです。」
- B「いや、明確にしておかないとわかりづらいと思います。」
- A「長いと認知負荷も高いです。」
- B「やることがわからない方が認知負荷が高くないですか?」
- A「いや、長いほうが毎回読まなきゃいけなくて...」
はい、どーでもいいです。
その会議はタスク名を綺麗にすることが目的の会議だったのでしょうか。チームとして今後のタスクの認識を共有し、協力して価値を作り出すための会議だったはずです。
もちろん、チーム内の価値観を合わせるための会話として意味はあると思います。「ただ、今じゃない」みたいなことはよくあります。
エンジニアは仕様をコードで正確に表現する必要があったりするので、「正しさ」に敏感です。それがどうしても癖で出てしまう、特性のようなものだと感じています。
それを減らすために会議の目的を明確にしておくとか、気づいたタイミングで「あ、今じゃない気がしますね」みたいな感じで保留したりする技術が結構大切になります。
「正しさ」の主張を通すことが目的になってしまっている会話で、本当に解決したい問題がそれなのかを常に意識できるように工夫をすることが重要です。
「敵」から「仲間」へ - 共に解決を目指す姿勢
もちろん本当に解決したい問題に対して意見が対立することはあると思います。それは健全で、本書籍でも対立するなとは主張していません。
一方で気を付けたほうが良いこととして、以下のように述べています。
エンジニアに多い「どちらが正しいか」の論争では、話し相手は論破の対象「敵」です。 もし、話し相手があなたを攻撃してきたら……当然、自分を守り、相手の要求を拒否する行動に出ますよね。一方、人は自分に危害を及ぼさない相手には優しいのです。双方満足に合意ができれば、あなたを助けてあげたいと思う人が増えていきます。
攻撃されたら拒否したくなる。これは人間の性なのではないかと感じています。その場の正しさではなく、人間としての防衛反応に着目すると色々と行動が変わるような気がしています。
どのようにすると良いのかについては以下のように述べています。
攻撃をする話し方を止めて、 「共に解決を目指す話し方にすれば良い」が1つの答えです。
とてもざっくりしていますが、これが本質的な解だと思っています。具体的な実現方法の提案は本書籍に記載されているので読んでみてほしいです。
私の一つのおすすめは、主語を「私」ではなく「チーム」にすることです。それをしていると自然と課題に対して、自分だけの解決ではなく共に解決を目指す話し方になりやすいです。
例えば、あなたの設計をチーム内でレビューしている際により理想的だけど再設計の手間が大きい指摘があったとします。その際に以下の2つの回答を比べてみます。
- 再設計するのは時間がかかるので私が困ります
- 再設計するのは時間がかかるので納期に間に合わずチームが困ります
前者だとあくまでも困っているのは私だけで、困っていない相手とは対立関係になりやすいです。相手は困らないので、理想的な形を主張し続けるかもしれません。
後者であれば私も相手も共に納期という課題を元に協力する必要があり、「チームとして共にどう解決していきましょうか?」という流れになりやすいです。チームとして妥協した設計を受け入れる話になるかもしれませんし、相手が自分の他のタスクを巻き取り調整する案も自然と出てきます。
このように、対立があったとしても、戦いではなく協力関係になる工夫が非常に重要になります。
信頼を築く「自爆」の姿勢
またその上で、以下のような行動で信頼を積み重ねていくことが重要であると書籍では述べられています。
- 話す側が完全に自分を守らない状態になる
- エンジニアで嫌われる会話をしている人は、「話し相手より自分を守ろうとしている」のパターンが多い
- 話し相手が安心を感じて心を開くには、自分を守らない「自爆」の姿勢が重要
攻撃されると拒否したくなるのと同様、自分を守ろうとするのは自然な反応です。
だからこそ、適度に自分を守らない姿勢でいることでよりコミュニケーションの障害が減り、信頼も生まれやすいと考えています。
私はまだまだ修行中です。特に強い命令口調に対しては、反発して熱くなる感覚を持っています。これは自然の反応です。
心理学用語では自由を制限された際に、それに抗おうとする性質を心理的リアクタンスと呼びます。勉強しようとしていたのに、母親から「勉強しなさい」と言われるとやる気がなくなる例が有名ですね。
私は熱くなる心を俯瞰して、それが無意味な反発や戦闘に繋がらないように処理しています。「それがプロだ」と自分に言い聞かせていますが、まれに目的外の議論で盛り上がってしまい、後から反省することもあります。
また、自分の間違いをみんなの前で認めるのはいまだに怖いです。意識的に頑張ってすぐに認めて、チームの改善に活かすという姿勢をとっていますが、まだまだビビっている感覚があります。もう少しスッと認められるようになれるとよりプロに近づけるでしょう。
幸いなことに自分を守らないで信頼を築くのが上手なメンバーが近くにいるので、日々の行動から色々学びを得ています。今後も修行を続けます。
まとめ
この本の中で、自分の経験も踏まえて本当に良かったところを紹介してきました。
「論理的で正しいことが全て」と考えがちな方にとって、何かしらの気付きにつながれば幸いです。
またそうでなくても、少なからず同様の行動をとっている人はいると思います。もし気になれば書籍も読んでみてください。
